● 窃盗症/クレプトマニアの治療モデル

 窃盗症/クレプトマニアの治療目標は「再犯しないで過ごしていけること」です。

 主流になっているのが「再発防止/リラプス・プリベンション」モデルです。一度やめることができたら、再発したいとは思わないでしょう。再発を防ぐために、あらかじめ、いろいろな対処方法を持っておき、予防することができるようになることが大切という姿勢です。

 ただ、窃盗症/クレプトマニアとは窃盗衝動をうまくコントロールできない状態にあります。何らかのきっかけ(引き金)があると、再び窃盗行為を繰り返してしまう、という性質があり、再発はつきものといわれています。

 

 もちろん、再発がない方が望ましいのはいうまでもありません。そのため、予防するための対処方法を身につけておく必要があります。

 ここで気に留めておいてほしいのは、再発とは必ずしも再犯や再行動をさすわけではありません。窃盗行為をしていたときの考え方や行動に近い状態になっていることを再発と呼びます。そこから再行動に至らないよう、対処することが大切です。

 あつた白鳥クリニック 依存症・嗜癖治療センターでは、窃盗症/クレプトマニアのオンラインでのグループ・プログラムを実施しています。下記の電話番号まで、「オンライン・プログラムについて」とお問い合わせください。

あつた白鳥クリニック 依存症・嗜癖治療センター 052-671-1555

● 窃盗症/クレプトマニアにおけるリスクの考え方

 窃盗症/クレプトマニアとは、精神的・社会的なリスクをおかしてまで、万引き等の問題行動を行う状態です。冷静になって考えてみると、社会的なデメリットの方が大きいことは分かっているのに、「盗みたい」という衝動が抑えられず、万引き等をおこなってしまうのです。

 精神的リスクとは、「やってはいけないとは分かっているけれど、止めることができない、どうしたらいいのだろうか」といったように、その行為によって葛藤や罪悪感が生じ、本人の精神的な健康がネガティブな状態になることです。

 また、社会的リスクとは「窃盗という法に触れる行為をすることで、社会的な地位・ステータスを著しく損なう場合」のことをさします。

 

 窃盗症/クレプトマニアでは、このようなリスクを分かっていながらも、リスクを過小評価してしまう傾向にあります。そのため、リスクをおかしてまで望ましくない窃盗行為・万引き行為をしてしまうおそれがあります。意志の力だけでは衝動性をコントロールできないのがプロセス依存の特徴ですので、適切な治療・支援が望まれます。

 

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● 性依存症 学習される行動の例

学習とは、経験によってもたらされる行動の変容を意味します。性依存症について、学習と強化という観点から眺めてみましょう。

 例えば、窃視障害では「盗撮をする」という行動に関して、盗撮がうまくできた場合では「うまく盗撮できた」という達成感や「性的に興奮できた」という満足感が得られます。

 まず初めに、盗撮=達成感・満足感という学習がなされています。また、達成感や満足感が得られることで、盗撮という行動が維持(強化)されます。盗撮したい対象がうまく見つからなかったり、対象が見つかっても撮影ができない場合もあるでしょう。しかし、何度かの試みで上手くいった体験があると、より盗撮行動が進展しやすくなります。

 上手くいった、満足できたという体験(報酬・強化子)は「次もこうすればいい」「今度は、こうした方がもっとうまくいくだろう」という学習へとつながります。

 こうした一連の流れによって、特定の行動が強化される「学習」と、学習によって獲得されたパターン行動が維持されていく「強化」によって、盗撮行動が維持されることが依存症の本質の一つだといえるでしょう。

 

 あつた白鳥クリニック 依存症・嗜癖治療センターでは、性依存症治療のオンライン・グループ・プログラムを実施しています。下記の電話番号まで、「性のオンライン・プログラムについて」とお問い合わせください。

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● 窃盗症/クレプトマニアと環境調整

 生活するうえで問題の生じにくい状況へ変えていくことを「環境調整」と呼びます。他の課題であっても窃盗症/クレプトマニアであっても、できるだけ問題を発生させるきっかけとなる状況を避けることは有効な対処方法といえます。

 しかし、万引き・窃盗の再犯率は高く、何度服役してもその後再犯に至るケースが少なくないのが実情です。「盗むことができない環境で盗まない治療」ではなく、「盗める環境で盗まない」ようになることが窃盗症/クレプトマニアの治療においては、非常に重要になってきます。

 

 日常生活には、様々なきっかけが潜んでいます。どのような環境が窃盗・万引きの引き金となるのか、その時の状況、気持ち、実行に至る過程を振り返ることを通して、自分にとって再犯しないでいられる環境を整えていくことが大切になります。

 また、ここでいう「環境を整える」とは、どのように考えたり行動したりすれば再犯を防げるのかを探ることも含めます。盗める環境でも盗まずにいられるのかを実践していくには、窃盗症/クレプトマニアのメカニズムと再発防止に向けた自己理解を進めていくことが重要です。

 

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● 性依存行為に「はまる」

 依存症とは、ある特定の行為に「はまる」ということです。

 「はまる」とは、性依存症の場合では「耽溺する」という言葉が当てはまるかと思います。耽溺するとは、よくないことに夢中になって、それ以外のことをかえりみない状態にあることを意味します。

 性依存行為にはまっているときは、依存行為に夢中になっていて、他のことにはなかなか注目がいきません。これは、性依存行為という特定の行動が、パターン化されて維持されている状態です。

 特定の行動パターンが維持されるためには、何らかのフィードバックが得られている必要があります。フィードバックは、達成感であったり、満足感であったりですが、特定の性依存行為を続けさせようという動機づけにつながります。特定の行動をとる頻度が増えたり、維持されたりする状態を強化される、といいます。

 依存行為と達成感や満足感がセットになっていることで、依存行動が強化され、ますます抜け出せなくなってしまうのです。この場合、依存行動を強化している状況を変化させることが大切です。

 

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● 窃盗症/クレプトマニアと食習慣異常

 一般的な窃盗症/クレプトマニアの症例では、摂食障害とまでいかなくとも、何らかの異常な食習慣が見出されることが多いといわれています(竹村道夫より)。窃盗症/クレプトマニアにみられる代表的な異常な食習慣を以下にあげます。

A.明らかな摂食障害があるが治療歴がない。

B.30%以上の体重の増減がある。

C.夜間の過食習慣がある。

D.一日一度しか食事しない、後はお菓子をつまむだけ。

E.自発性の嘔吐習慣がある。

F.チューイング(噛み吐き)の習慣がある。

G.ダイエット中のアスリート。

H.糖尿病などのダイエット中である。

I.極端な偏食がある。

J.摂食障害既往のない窃盗症患者が、良好な治療経過中にダイエットを開始したら、途端に再犯した。

 これらの例では、生理的な飢餓感を抱えやすい状態にあることから、涸渇恐怖やためこみマインドにつながりやすいこと、涸渇恐怖やためこみマインドが窃盗衝動の原動力となっている可能性があると考えられています。

 

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● 性依存症と意志の力

 反復する性的逸脱行為の背景には、依存症の要因が強く影響しています。

 本人も周りも、問題そのものに注目がいってしまい、その行為の背景に「依存症の問題」が関係しているということになかなか気づけないでいます。どうしてその行為自体にはまり込んでしまっているのかを、依存という観点から理解することが改善には有効になってきます。

 よく、何かに依存するのは「意志の弱さ」があるのではないか、ということが聞かれます。意志を強く持てば、あるいは大切な人や物を失うことを考えれば依存行為をやめられるのではないか、という意見です。

 

 しかし、依存症とは、自分の意志では依存行為をコントロールすることができないことが大きな特徴です。コントロールの障害には、脳の機能的な変化も関連してきますので意志の持ち方次第でどうにかなる、というものではありません。

 本人がやめたい、やめなければならないと思っていても、ある特定の状況になると、行為の衝動がうまくコントロールできず、再度行ってしまうケースが多いのです。この点を分かりながら性依存症の問題を考えていく必要があります。

 

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● 窃盗症/クレプトマニアと摂食障害との関連

 窃盗症/クレプトマニアでは、摂食障害との合併が多く、何らかの食習慣の異常を持つケースが多いといわれています。窃盗症/クレプトマニアと摂食障害が重なる要因として、「飢餓感」、「涸渇恐怖」などがあります。

 強いストレス下では心理的飢餓感が生じやすくなります。欲求が満たされていない場合には、人は何らかの形で欲求を充足させようとします。しかし、健全な方法がわからなかったり、挫折体験をすることで自己肯定感が保てなくなったとき、現代人は変身願望からダイエットにしがみつくといわれます。痩身維持に失敗すると摂食障害を発症してしまいかねません。

 

摂食障害患者は、

「心理的飢餓感」

「生理的飢餓感」

というダブルの病的飢餓感を持ちます。これから、「自分の物や資金が減る」「周りからの自分への評価が下がる」という涸渇恐怖が生じます。摂食障害では、この恐怖に対処するために買い物の際に予備の資金を減らさずに多くの商品を入手したいという衝動、つまり盗みたい衝動に駆られてしまうといわれています。

 適切な形で欲求が充足される方法を身につけることが、窃盗症/クレプトマニアに至るのを防ぐことにつながるといえるでしょう。

 

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● 性依存症の間接的引き金

 性依存行為を起こしたくなるのは、直接的な引き金に出会ったときばかりではありません。仕事のストレスが溜まった時、イライラしたりすると、憂さ晴らしをするために依存行為をする、といったことはありませんか?

 自身の内的感情が引き金となって依存行動をしたくなるときがあります。目の前に対象者がいる、という直接的な引き金ではありませんが、間接的に性依存行為に影響を及ぼしています。これまで、どんな気持ちのときに依存行為をすることが多かったでしょうか?

 依存症全般に関する間接的な引き金としては、「H.A.L.T.」(ハルト)という感情状態があげられます。

空腹/幸せ:Hungry/Happy

怒り:Anger

孤独:Lonely

疲労:Tired

 これらを感じていると、依存行為が再燃する危険性があるといわれています。自分の感情をよくモニタリングして、適切な感情の状態に持っていくことが大切でしょう。

 

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● 窃盗症/クレプトマニアの認知のクセ

 モノの見方や考え方を「認知」といいます。例えば、100円のおにぎりを「安い」とみるか、「高い」と思うかは人それぞれで違います。人にはそれぞれに、認知(モノの見方)のクセがあります。認知のクセは、その人がそれまでに経験してきた事柄、育ってきた環境などによってできています。

 ある状況に対する、モノの見方のパターンを認知的スキーマと呼びます。特定の場面におけるモノの見方、認知のクセに偏りが強くみられると「認知の歪み」となって困った考えや行動につながることもあります。

 

 窃盗症/クレプトマニアの人では、このモノの見方=認知のクセが著しく偏っているケースが多くみられます。100円のおにぎりについて、「100円程度だったら、盗っても大した問題にはならないだろう」、「盗ったとしても、店側の損失はほとんどない」といった考え方から、窃盗をしてしまうことがあります。このケースでは、物事を過小評価する方向へと認知が歪んでいます。

 もし、お店は100円のおにぎりを90円で仕入れていたら、1個の利益は10円です。100円のおにぎりが1つ盗られると、利益を上げるには10個分のおにぎりを売らなければなりません。このような、相手側の立場についての視点が欠けてしまうことも、認知の歪みから生じてきているのです。このようなクセを知って、直していくことが治療では必要になります。

 

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